初めに簡単に基本的な関節と筋肉についてです。
<関節>
関節は2つ以上の骨がつながる部分です。
その形には
・ドアの蝶番の様な動きや(蝶番関節)、
・石臼のように回る形(球関節)、
・ブロックがセメントで埋められているように
ほとんど動かない関節
など様々です。
形は様々ですが、共通する特徴の一つは、関節の形は必要な動きに合わせた形にできているということ。必要な動きに合わせた形というのはとてもよくできていてますし、骨は筋肉の動きに合わせて形を変えることさえできます。
例えば、球体の形をした関節であれば180度に近い動きができる機能を持っています。
博物館では動物の標本=骨を見ることができますが、骨や関節の特徴をみると、筋肉のつき方やその関節や動きがわかるように、関節の形と筋肉の動きは密接に関わっています。
<筋肉>
そして、動きを作るのは筋肉です。
筋肉は一般的に関節の周りに関節を挟むようにして(つまり2つ以上の骨に)
付くものです。
筋肉が収縮すると骨と骨が近づいて関節が動くことになります。
関節の周りには、靭帯や腱なども存在しますが、その中でも筋肉だけが関節を動かす力を持つ唯一の組織です。
<関節・関節運動>
一つの筋肉だけ見ると、真ん中に向かって収縮します。
なので、一つの関節で一つの筋肉が収縮した時、その動きは一直線(一方向)です。
ただ、筋肉は一つで動くものではありませんし、
人は一つの関節だけで動く(動作をする)ことはほとんどありません。
複数の関節の動きが組みあわさって動作を作りますが、関節の周りで作り出される運動を「関節運動」と呼びます。
<動作>
動作とは、“目的に応じた関節運動の組み合わせ”です。
つまり2つ以上の関節運動が組み合わさって動作が起こります。
その動きは単関節運動より、グッと複雑になります。
同じ関節で同じ動きでも、目的により動作も変わります。
例えば買い物袋を持つように肘の関節を曲げる時、隣の関節である肩は固定されていなければなりません。
逆に、手首が固定されて肘が曲がると懸垂のように体を持ち上げる動作になります。
これらは、同じ肘が曲がるという動きでも固定する場所によって動作が変わる例です。
一方筋肉にフォーカスすると、ある関節を曲げようとした時は
反対側の筋肉は程よくゆるまなければなりませんし、曲げた関節を伸ばすときには、
縮んだ筋肉が適度に緊張を保ったまま、ゆっくりと伸びていきスピードをコントロールします。(これを筋の協調性と言います)
このように 隣の関節を固定するための筋肉やバランスを取って伸び縮みする筋肉が臨機応変にからだの中で活躍し、連動して動くことで滑らかな動作が可能となります。

<複合運動と運動連鎖>
動作でもう少し複雑な例を挙げてみます。
例えば、“コップを使って水を飲む”という動作では肘を曲げる一方で、体は伸ばしたまま、首は軽く捻って曲げる、別々の場所がそれぞれに違う動きをしています。
さらに体幹と首は一度コップに近づき、適度な力で口をコップにつけて、そして水を飲む際は手の動き(傾き)に合わせて体幹と首を伸ばすという複雑な動きをしています。
この一連の首から体幹の動きは
目線、頭、首、肩、背中、、、が一連の滑らかな動きができるからこそ、上手に水を飲めるのです。
このような、体のなかで隣り合った部分の動きがつながり、滑らかな動きを起こすことを“運動連鎖”と呼び、体を動かす中でとても大切な仕組みになります。
体の沢山関節を介して滑らかな運動連鎖が起こるためにはそれぞれの関節と、関節につく筋肉や周りの組織がその時必要な動きを「正しく・強調よく(ムダなく)」遂行する必要があります。
「正しく」というのは、
縮む時、ゆるむ時、その力・スピード・パワーとタイミングが周りの動きに合わせてバランスが良い状態で(協調性よく)動くこと、だと思ってください。
この状態で動けると、効率よく、筋肉や関節にかかる負担が少なくて済みます。
しかし、実はここからが深掘りポイントです。
<関節と筋肉のバリエーションについて>
同じ骨に同じ関節と同じ筋肉が組み合わされていれば
みんな同じ動きができるのでは??
と、簡単に考えがちではありますが、
実はそこが大きな落とし穴なのです。
(たいていの説明はここまでなので、
一見万人が同じ動きをしていると錯覚してしまいます)
関節も筋肉も一見みんな同じように見えますが
一人一人違い(ヴァリエーション)があるのです。
どの様なヴァリエーションがあるかと言うと、
・同じ名前の筋肉でも、長さ太さが違う
・違うだけならまだしも、人によっては部分的に無い場合もある
(無い場合もあります、というか、“無い“ことが結構あったりします)
・あっても骨に着く場所や範囲が違う
など。
また骨も
・太さや長さが違う(左右でも違う)
・曲がる角度やねじれ具合、
・筋肉がつく面の広さなどが数ミリずつ違う
ことも多々あります。
関節でも
・二つの骨が隣接する隙間の広さや角度
・関節を囲む組織や靭帯の大きさや厚さ、広さなども、
それぞれの組織について一人一人微妙な違いがあります。
顔の骨格や目や鼻の大きさ、
手足の長さが、全く同じ大きさ、同じ形というのは無いですよね。
それと同じように、目に見えない場所の筋肉や骨も、
このように違いがあることの方が一般的だということが大事なポイントです。
さて、骨の長さや曲がる角度、ねじれ具合などが一つ一つ違い、
それを動かす筋肉の太さや本数、着く場所や面積や方向なども
1箇所ずつが違うのですから、
それが連動して作り出す動きも一人一人違うのです。
<運動が一人一人違うという意識>
そう言われると当たり前と言えば当たり前のような気もしますが、
専門家でも意外とその事実に気がつかないことも多いですし、
本当に細かな違いは一見しただけでは分からないことも多いです。
でも、“筋や骨、関節にヴァリエーションがある”ということを前提として
それを考慮した関節の運動を考えることが、
本当に本人にとって適した運動(効果的で負担が少ない)を考える
ということになります。
なぜなら、筋肉の着く場所や面積の違い、骨の角度やねじれの違いは単関節でも発揮される力の方向(動く角度)、大きさが変わり、それが体全体では何十、百という複数の関節で同時に起こるのですから様々な動作に大きな影響を及ぼします。
これが、一人一人の動きの違いや、あるいは動きの癖というものが出てくる原因にもなります。プロの運動選手であればパフォーマンスに大きく影響します。
生活の中でも 「そう言えばいつも姿勢に癖がる」とか「いつも靴の片方が減る歩き癖がある」とか、「同じ方向で座っている癖がある」とか姿勢や動きの癖があると思います。
これは、自分の骨の形や筋肉のつき方に合わせて、しっくりくる身体の使い方を自分なりに工夫、追求した結果なのかもしれません。
この動きの癖=一人一人の違い
=一つ一つの骨・筋肉・関節の違い
というのはとても重要なのですが、いざ運動や体操をしようとなると、みんな同じ動きを求められる場合があります。
例えば
・痩せるならこの運動!とか、
・スポーツ競技のコツは○○で必ず上達!など、一般的論としてこのようなアドバイスがあると思います。

でも、一人一人の体の作りが違うとしたら、
同じ動きをして、万人に同じように効果があるとは限りませんよね。
つまり、筋肉の力をつけたり、パフォーマンスの質を上げようとする場合は
自分の体の仕組みに、動きが合っているかどうか?
という視点が大事です。
<一人一人自分に合う動きを考えよう>
骨のねじれを無視して真っ直ぐに動かそうとしても
それは無理な話。
動く方向を骨のねじれに合わせる方が自然です。
関節運動の方向に違和感がある場合は、
本来正しい方向へ動くための筋肉が働いていないのか、
もしくは関節自体の形に合わせているのか、
考える必要があります。
歩く時も、体を傾向けたりしているのは
左右の足の長さの違いを自分で合わせ長としている結果かもしれません。
膝の関節を曲げているのは、そのほうが股関節のはまりが良く
安定しているからかもしれません。
そこを無理やり見かけの綺麗さだけを揃えようとすると、
思わぬトラブルが出てくる場合もあります。
それより大事なのは、自分にとって効率的な動き
=自分の関節の形や筋肉の状態に合った、バランスの良い状態で動いているかどうか
という視点が大事です。